西田敏行さん
大好きな名優、西田敏行さんが逝ってしまわれた。とても悲しい。
2003年にテレビ東京で放送されたお茶の間コメディ『すっから母さん』(テレビ東京系)の取材で、一度、西田さんにお会いしたことがある。植田まさし先生の同名4コマ漫画を実写化、しかも主役のお母さん役を西田敏行さんが演じるということで、『TV Bros.』のライターとして収録現場におじゃました。
西田敏行さん演じる「てる子」は、デブでドジで気分屋のお母さん。
昭和風なパーマ頭のかつらをかぶってエプロンをつけて、おしろいを厚塗りして真っ赤な口紅をひいた西田さんは、原作のてるこよりも数段迫力があって、それだけでも吹きだしてしまう面白さだった。
夫役はコント赤信号の小宮孝泰さん、娘役がオセロ(当時)の中島知子さんで、家族のかけあいもサイコー。
撮影の合間、「てる子」 の格好のままの西田さんにインタビューさせてもらった。
「てる子は、体形的には、ロシアの田舎にいそうなおっかさんだね。ロシアといってもモスクワとかじゃありませんよ、イルクーツクあたりにいそうな!」
と西田さん。
西田さんといえば映画『おろしや国酔夢譚』にも出演されていて、ロシア方面に詳しそうなイメージがあった。旅人の私は、その地名に喜んだ。
「ははは、イルクーツク! 確かに、ビア樽みたいな体形のおっかさん、あのへんに沢山いそうですね。ほっかむりして、“ダー、ダー”言ってそうな!」
すると西田さんは
「そう、“ダー、ダー”言ってるオバチャンたちよ。ダーッ!」
と言って笑った。
ロシア語はもちろん、ロシア系の多くの言語において、返事の「はい」は「ダー(DA)」。
それを知った時は衝撃を受けたものだ。(なんとも美しくない響き!) 私は久しぶりに「ダー」や、ダーの国々を思い出して懐かしくなり、そして可笑しかった。ひょっとしたら、西田さんもそうだったのかもしれない。
(私の中でビア樽といえばルーマニアのオバちゃん)
その後、スタジオの後方で本番収録を3本分ぐらい見学させてもらった。
立ちっぱなしだったけど、大丈夫だったよ、あの頃は。
収録の合間の短い休憩中、ボエ~ッとしていたらふいに背後から声をかけられた。
「ダーッ!」
暗がりで振り返ったけど誰もいない。あれっ? すると前方に、私の背後からつかつかとセットへ向かって歩いて行く西田さんがいました。ニコニコと笑いながら。
西田敏行さんのご冥福をお祈りします。
ダー!